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千葉地方裁判所 昭和42年(ワ)34号 判決 1968年5月17日

原告 海保重雄

右訴訟代理人弁護士 半田和朗

被告 千葉タクシー株式会社

右代表者代表取締役 森本孝二

右会社訴訟代理人弁護士 杉村進

同弁護士 安藤嘉範

右会社訴訟復代理人弁護士 亀井忠夫

主文

一、有限会社千葉タクシーの昭和四一年一〇月一三日なした組織変更による千葉タクシー株式会社の設立は無効とする。

二、原、被告間に於て、原告が有限会社千葉タクシーに対し出資六〇〇口に応ずる持分を有することを確認する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、主文第一乃至第三項同旨の判決を求め、その請原求因として次の通り述べた。

一、1、原告は有限会社千葉タクシーの社員として同社に対し出資口数六〇〇口(一口の金額一、〇〇〇円)に応ずる持分を有している。而して原告は現実に出資して右持分を取得したものである。

2、有限会社千葉タクシーは昭和三六年九月一五日資本総額四〇〇万円出資一口の金額一、〇〇〇円と云う有限会社として設立され、昭和四一年一〇月一三日千葉タクシー株式会社に組織の変更がなされ、同年同月二四日その旨の組織変更の登記がなされた。

3、然しながら有限会社千葉タクシーは株式会社に組織変更をなす目的で社員総会を招集したことはないし、従って原告も右の如き総会の招集の通知を受けたこともない。

4、従って有限会社千葉タクシーの組織変更による千葉タクシー株式会社の設立は総社員の一致による総会の決議を欠き無効である。

二、1、被告は、本訴に於ては商法第四二八条一項、二項が類推適用されるから被告の株主又は取締役のみが本訴の当事者適格を有しており、原告は被告の株主でも取締役でもないから当事者適格を有しない旨主張しているが有限会社から株式会社に組織変更がなされた場合は、この株式会社の設立の無効の訴については、組織変更前の有限会社の社員も当事者適格を有している。そうでなければ有限会社の社員が知らないうちに、株式会社に組織変更がなされた場合訴訟上これを争う手段を奪われることになる。

2、次に被告の訴外海保禎夫が原告から有限会社千葉タクシーの持分の譲渡の代理権限を与えられていたと云う主張、乃至これに関する表見代理の主張であるが、原告は訴外海保禎夫に有限会社千葉タクシーの持分の譲渡の代理権を与えたこともないし、又訴外海保禎夫にその余のことについても何等代理権を授与したことはない。而して有限会社千葉タクシーの社員は訴外海保禎夫と全て同族ではなく、訴外田野敏夫は同族外のものであり、又訴外海保禎夫は有限会社千葉タクシーの経営その他一切の権限を握っていたわけではなく、まして社員の私的取引についてもこれを処理する権限を有していたわけではなく、有限会社千葉タクシー関係の一切の事項の処理を委されていたわけでもない。原告も折にふれ、有限会社千葉タクシーの経営に参加していたものである。又原告と訴外海保禎夫の関係は、同人が原告名義の文書を偽造したことを知ってから訴外海保禎夫から原告の娘の結婚の仲人を拒絶さえしている。このような関係であるので如何なる点からも被告の前記主張は理由がない。

第二、被告訴訟代理人は、先づ本訴を却下する旨の判決を求め、次いで原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として次の通り述べた。

一、1、本訴は商法第四二八条一項、二項が類推適用される結果、組織変更後の株式会社の株主又は取締役のみが本訴について当事者適格を有しており、原告は株式会社千葉タクシーの株主でも取締役でもないから本訴については原告は当事者適格を欠き、却下を免がれない。組織変更によって損害を蒙った場合は有限会社の社員であった者は民法第七〇九条、ないし有限会社法第三〇条の二第一項第三号、同法第三〇条の三等の規定により救済を求めるべきである。

2、次に原告主張の事実中有限会社千葉タクシーがその主張のように設立され、組織変更がなされ、株式会社千葉タクシーが設立され、その主張のように登記がなされていることは認める。

3、右組織変更は有効になされたものである。即ち昭和四一年八月一七日午前一〇時千葉市加曽利町一八四番地本店に於て有限会社千葉タクシーの社員総会が開かれ、総社員の一致による総会の決議を以て千葉タクシー株式会社に組織変更することになった。而して右の組織変更は同年一〇月一三日千葉地方裁判所の認可を受けた。

4、有限会社千葉タクシーの社員は昭和四一年六月三〇日迄は訴外海保禎夫、同海保すゑ、同海保かず子、同海保重雄、同田野敏夫、同丸山博であったが、いづれも昭和四一年六月三〇日訴外海保禎夫は出資一、六五〇口に応ずる持分を訴外森本孝二に、訴外海保すゑは出資二〇〇口に応ずる持分を訴外森本孝二に、訴外田野敏夫は出資一〇口に応ずる持分を訴外森本孝二に、訴外海保かず子は出資九三〇口に応ずる持分を訴外森本滋に、訴外丸山博は出資六一〇口に応ずる持分を訴外薄井優に、原告は出資六〇〇口に応ずる持分を訴外丹羽善男に各譲渡した。従って前記組織変更の決議のなされた社員総会当時の社員は訴外森本孝二、同森本滋、同薄井優、同丹羽善男であって、これ等の総社員の一致による総会の決議を以って前記組織変更がなされたものである。

5、かりに原告が有限会社千葉タクシーの出資六〇〇口に応ずる持分を訴外丹羽善男に譲渡したことがないとしても、有限会社千葉タクシーは訴外海保禎夫が実質上出資に応ずる全ての持分を所有していたのであり、他の社員は単に名義を貸していたのにすぎなく、従って訴外丹羽善男は前同日訴外海保禎夫から原告名義の出資六〇〇口に応じた持分の譲渡を受けたから、原告名義の持分は訴外丹羽善男に適法に譲渡されたものである。

6、かりに右のことが認められないとしても訴外海保禎夫は原告の有限会社千葉タクシーへの出資六〇〇口に応ずる持分を原告を代理して処分する権限を原告から与えられていたのであり、従って原告代理人訴外海保禎夫から前同日出資六〇〇口に応ずる右持分の譲渡を受けた訴外丹羽善男はこれを適法に取得したものと云える。

7、更にかりに訴外海保禎夫が原告から右代理権を附与されていなかったとしても、原告は有限会社千葉タクシーに関する事項は私的事項をも含めて黙示的に一切訴外海保禎夫に委任し、これに代理権を附与していたし、少くとも過去に於てそうであった。而して訴外海保禎夫は昭和四一年六月一八日正木屋で訴外金杉択、同高山由親、同高橋、同森本滋、同丹羽善男と会合した際、出資者は親戚が多く、全部円満に話がつく、同意の点は心配いらない、出資者は皆責任をもって辞任させると言明し、訴外金杉択はその際持分の譲渡の同意については大丈夫であることを訴外海保禎夫に確かめてから皆に持分の譲渡については心配ない旨を言明し、昭和四一年六月二七日には初音で訴外海保禎夫、同金杉択、同森本孝二、同丹羽善男と会合した際、訴外金杉択は譲渡に関する他の社員の同意の点については大丈夫である、心配ない旨を皆に説明し、又訴外森本孝二は昭和四一年六月三〇日有限会社千葉タクシーえの出資に応ずる持分の譲渡に関して社員の同意の点を訴外海保禎夫に質したが同人は大丈夫、全く心配ないと答え、次いで同日有限会社千葉タクシーの持分譲渡に関する契約を結ぶ際、同人は有限会社千葉タクシー臨時総会議事録の他各社員の署名押印のある各社員の持分譲渡通知書を訴外森本孝二、同丹羽善男に示した。従って訴外丹羽善男が訴外海保禎夫から原告の代理人として原告の有限会社千葉タクシーえの出資に応ずる持分の譲渡を受けた際は訴外丹羽善男は訴外海保禎夫が原告から右持分の譲渡に関して代理権を附与されていたと信じていたのであり且つそのように信じたことについては正当の事由があったと云える。そうであるから訴外丹羽善男は原告から代理人を通じて有限会社千葉タクシーえの出資に応じた持分の譲渡を受け、これを取得したと云える。以上の通りであるから原告の請求はいづれも理由がないことになる。

第三、≪証拠省略≫

理由

有限会社千葉タクシーは昭和三六年九月一五日資本総額四〇〇万円、出資一口の金額一、〇〇〇円と云う有限会社として設立され、昭和四一年一〇月一三日千葉タクシー株式会社に組織の変更がなされ同年同月二四日その旨の組織変更の登記がなされていることは当事者間に争がない。

≪証拠省略≫によると千葉タクシー株式会社は以後営業用自動車をも増車して、一般乗用旅客自動車運送事業を営んでいることが認められる。

ところで本訴は先づ有限会社から株式会社への組織変更をなすについて、その手続に欠缺があるとしてその無効を訴訟で求めているので此の点につき判断する。この訴については法律上特別の規定を欠いているが、設立無効の訴について規定した商法第四二八条は設立無効の会社によってなお営業が継続され、内外の法律関係が作出され、一定の秩序が形成された場合、最もまさつを少なくして適切にこれ等の関係を排除し、且つ一般人の信頼をも保護することを顧慮して同条が規定されていることにかんがみ、本訴については同法が準用されて然るべきである。ところで≪証拠省略≫を綜合すると、原告は昭和三六年頃訴外海保禎夫からの依頼で、有限会社千葉タクシーに六〇〇口(一口金一、〇〇〇円)に相当する合計金六〇万円の金員を出資し、同会社に対し同出資口数に応ずる持分を取得したことが認められる。この認定を覆えすに足りる証拠はない。被告は、右出資口数に応ずる持分は訴外丹羽善男に既に譲渡されている旨、主張しているが、≪証拠省略≫を綜合すると、訴外森本孝二等は昭和四一年二月頃から千葉市内でタクシー会社を経営することを考え、適当なタクシー会社の株式なり持分なりを取得しようとしていたが、有限会社千葉タクシーの持分が売り出されていることを知り、当時有限会社千葉タクシーの代表取締役であった訴外海保禎夫に昭和四一年五、六月頃交渉した結果、同人は同会社の全出資口数に応ずる持分を全てで金一七五〇万円をもって訴外森本孝二等に譲渡することを約し、訴外海保禎夫は昭和四一年六月三〇日頃訴外丹羽善男に、原告の、有限会社千葉タクシーに対し出資した六〇〇口に応ずる持分を原告に無断で勝手に原告を代理して譲渡したことが認められる。この認定を覆えすに足りる証拠はない。乙第六号証一、二、の原告名義の持分譲渡証、持分譲渡通知書は前認定に供した証拠によると訴外海保禎夫が勝手に作成したもので原告名下の印影は、訴外海保禎夫が印判屋から海保と云う印章を買い求め、同人が押捺したもので原告はこれに全く関与していないことが認められる。而して被告は更に有限会社千葉タクシーえの出資に応ずる原告の持分を訴外海保禎夫が代理権限なく訴外丹羽善男に譲渡したとしてもこれは表見代理の規定にあてはまり原告は代理人の行為につきその責任を有する旨を主張しているが、原告が訴外海保禎夫に有限会社千葉タクシーに関する事項に関し私的なことも含めて全てに黙示的に代理権を附与していたと云う点又はかつて附与していたと云う点については被告提出の全証拠をもってしてもこれを認めることが出来ない。そうであるから訴外丹羽善男が訴外海保禎夫を前記持分の譲渡に際し原告の代理人として信じたことにつき正当な事由があったかどうかの点を判断する迄もなく被告の表見代理の主張はその基本となるべき代理権を欠き、失当と云わねばならない。以上の次第であるから原告は現在に至る迄有限会社千葉タクシーに対する出資六〇〇口に応ずる持分を喪失していないと云える。ところで本訴には前記の通り商法四二八条が準用されるべきであり、従って本訴に関する当事者適格を有する者は組織変更前後の会社の株主及び社員に限られると共に、これ等の者は全て本訴に於ける当事者適格を有すると云える。そうであるから原告は本訴に於いて当事者適格を有すると云える。而して有限会社千葉タクシーの組織を変更して千葉タクシー株式会社にするには有限会社千葉タクシーの総社員の一致による総会のその旨の決議を要するが原告本人訊問の結果によると有限会社千葉タクシーを千葉タクシー株式会社と組織変更するについてはその社員総会に社員である原告は招集されず、従ってこの組織変更する旨の決議にも加わっておらず、ましてこれに同意したこともないことが認められる。この認定を覆えすに足りる証拠はない。従って有限会社千葉タクシーを千葉タクシー株式会社に組織変更するについてはその手続の要件を欠き、この手続の欠缺は右組織変更を無効とすると云える。そうであるから千葉タクシー株式会社の設立は無効と云える。次に原告の有限会社千葉タクシーに対して出資した六〇〇口に応ずる持分を原告が有している旨の確認請求訴訟について判断する。会社の組織変更は法規に則り既に存在していた会社をその人格の同一性を変更することなく従前と異なる組織を有する他種の会社にするものであり、法人格はその前後を通じて同一と云えるから千葉タクシー株式会社えの組織変更が無効であった場合は将来に向って組織変更前の有限会社千葉タクシーに復帰するに過ぎない。従って原告が有限会社千葉タクシーに出資した六〇〇口に応ずる持分を原告が有する旨の確認訴訟は適法と云えるし、なお原告が現になお右持分を有していることは前認定の通りであるから此の点に関する本訴請求も理由があり認容出来る。よって訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 中沢日出国)

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